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<髄芽腫>

[髄芽腫とは]

主に小児の小脳に発生する悪性脳腫瘍です。特に小脳の中央に存在する小脳虫部に多く見られます。

日本での発生数は、原発性脳腫瘍の約1%、小児腫瘍の約12%(第3位の頻度)です。小児悪性脳腫瘍の中で最も多く、小脳腫瘍の40パーセントを占めます。ただし、全国統計で小児の髄芽腫は年間40例~50例と言われていますが、登録漏れの症例が多く、この倍の発生があるものと推測されます。
10歳以下の子どもに多く、15歳未満が約84%です。3、4歳が発症のピークであり、男児に多く発生し、女児の1.6倍です。

腫瘍は小脳虫部を中心に発生し、第四脳室および両側小脳半球に浸潤する傾向にあります。また、髄腔内へ播種(種を撒いたように腫瘍細胞が転移)することがあります。この場合は、かなり予後が悪いとされています。また、たとえ脊髄MRI検査や髄液検査で転移が発見されなくても、診断時点で全脳、脊髄など全中枢神経系にミクロレベルの転移が存在するのではないかと言われています。4%の患者では、骨、骨髄などの中枢神経外にも転移がみられます。

3歳未満で発症した患者は、最も予後が悪いと言われています。

手術による全摘出は、小脳に発生したものは比較的容易と言われていますが、完全摘出をしても治癒は得られません。しかし、放射線や化学療法に感受性が高い腫瘍です。

[初発症状]

腫瘍は主に小脳虫部に発生するため、神経症候として小脳虫部障害による体幹失調および眼球運動障害が認められます。腫瘍が増大すると第四脳室が腫瘍に占拠され、水頭症を生じ、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状が発生します。症状は、比較的急速に進行します。乳児では骨縫合の離開により自然に減圧されることがあり、腫瘍の診断に時間を要する場合があります。

[診断]

診断には主に頭部CT検査と頭部MRI検査を行います。頭蓋内播種と脊髄播種もMRIにて描出されます。MRIが最も感受性の高い検査方法ですが、髄腔内転移が認められなくても、髄液細胞診で陽性となることもありますので、これが行われることがあります。

手術により摘出した腫瘍組織から、病理診断を行います。

鑑別診断としては、上衣腫、星細胞腫、異形奇形種様・類横紋筋腫瘍(AT/RT)などとの区別が問題になります。その病理診断によって、治療法や予後がかなり異なる可能性があるので、診断は非常に重要です。

[治療]

髄芽腫に対する一般的な治療は、顕微鏡手術下の腫瘍摘出術、及び術後の化学療法、腫瘍局所照射・全脳全脊髄照射です。

・手術

腫瘍が発見され次第、通常は手術が行われます。手術の目的は病理組織検査のための腫瘍組織を得ることと同時に可能なかぎり腫瘍をすべて摘出することですが、脳幹部や大事な血管や神経に浸潤している場合には、正常な機能を損なう可能性がありますので、部分摘出または生検のみにとどめられることもあります。

腫瘍が髄液が脳室から脊髄腔へ流れ出す通路を塞いだ場合、脳室内に髄液がたまって脳室内の圧力が高まり、水頭症といわれる状態になることがあります。この場合、脳室内にチューブを留置して体外または腹腔へ髄液を流すシャント留置術が行われることがあります。

・放射線

放射線治療については、全脳全脊髄に36Gy、局所である後頭蓋窩に18Gy(腫瘍線量54Gy)の照射を行うことが標準でした。
しかし、大脳に広範囲に照射されると精神発達、IQなどに障害が出ることがあり、照射された年齢が低いほどこのような後遺症はより強く出ます。脳脊髄への放射線照射25Gy~45Gyを行った5年以上生存した症例において、IQは全例で90以下であり、特に神経細胞が完成する3歳以前に診断された症例ではそれ以後に診断された症例よりも平均IQが有意に低いという結果が得られています。また、3歳以上であっても7歳未満では24Gyでも照射後徐々にIQが低下することが知られています。
知能の低下のみならず、全脳照射により、下垂体に多量の放射線があたると、成長ホルモン等の内分泌不全の障害が生じたり、脳血管障害が生じて脳梗塞になったり、髄膜腫や神経膠芽腫などの二次がんが発生することもあります。
また、脊髄に照射すると脊柱の椎骨も同時に照射され、その結果骨が伸びにくくなり座高が低くなったり、女児では脊髄の最下部に照射する際に卵巣が照射野に含まれることがあり、その場合は不妊となります。
長期生存例においては、生存の質が問題となっており、今後の課題となってきています

・化学療法

術後は、放射線治療のみでは治療成績が不十分であり、かつ、上述のように放射線治療による数々の後遺障害が問題になっていることから、最近では、放射線照射量を減少するとともに、種々の化学療法を併用する治療法が行われています。特に3歳未満の乳幼児は、化学療法を第一選択とし、放射線照射は3歳を越してから行ったり、あるいは全く行わない治療法が検討されています。

放射線照射と化学療法を行うと骨髄抑制による貧血、白血球減少による感染抵抗力の低下、血小板減少による出血傾向などの副作用に注意が必要です。その他、使用する化学療法剤によって種々の副作用があります。そのため、これらの化学療法は、小児科との連携により行われます。


[予後及び現在開発されている治療方法について]

 現在、リスク分類としては、(1)3歳以上、(2)手術後の残存腫瘍が1.5m2以内、(3)転移(播種)がない、以上の3つの条件をすべて満たすものを標準リスク群とし、それ以外を高リスク群とするのが一般的です。
 1994年、抗がん剤のシスプラチン、ビンクリスチン、CCNUを用いて転移のない患者で5年無進行生存率90%(後の大規模な追試で79%に低下)、転移のある患者で67%という結果が米国から報告されました。
 しかも転移のない患者では全脳、脊髄への放射線量は従来の36Gyから23.4Gyに減量されており、髄芽腫に対する新たな治療の方向性が示されました(Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al.: Outcome for children with medulloblastoma treated with radiation and cisplatin, CCNU, vincristine chemotherapy. J Neurosurg, 81: 690-698, 1994)。
 アメリカでは、現在、標準リスク群の5年無進行生存率は約80%、高リスク群のうち、3歳未満については約30パーセント、それ以外の高リスク群は約50%の成績と言われています。
 しかし日本では、アメリカやヨーロッパの成績と比較すると治療研究体制が遅れており、成績は劣っていると言われています。日本脳腫瘍統計の報告では、髄芽腫全体で、2年生存率が67%、5年生存率が42%となっております。日本では、上記抗がん剤のうち、CCNUが未承認であることから、米国のプロトコールをそのまま使うことができず、現在、日本独自のICE療法(イフォスファミド、シスプラチン、エトポシドの併用化学療法)が広く行われています。

 アメリカでは、1996年から上記化学療法のうち、CCNUをシクロフォスファミドに置き換える試みを開始し、パイロット試験では置き換え可能という結論が出ていたのですが、2006年秋、大規模な第三相の臨床試験の結果報告がなされ、少なくとも標準リスク群ではCCNUとシクロフォスファミドは置き換え可能であるという結論が確定しました(どちらも5年無イベント生存率81%。 Packer RJ, et al.: Phase III study of craniospinal radiation therapy followed by adjuvant chemotherapy for newly diagnosed average-risk medulloblastoma. J Clin Oncol 24: 4202-4208, 2006)。
日本でも利用可能な化学療法によって極めて優秀な成績を高度のエビデンスをもって達成できたことにより、今後、この治療方法を採用することにより、日本の成績も大幅に改善されることが期待されます。

 しかし、上記23.4Gyの全脳全脊髄照射でも、低年齢児では後遺症が強く出るため、さらに照射線量を減量する試みが行われています。米国では、転移のない患者で全脳・脊髄への線量を18Gyに減量したパイロット試験が行われ、10人のうち7人が6年以上生存しており、しかもIQの低下はほとんど見られなかったという期待のもてる結果が出されています。これを受けて、現在米国では23.4Gyを18Gyに減量できるかどうかを検証する臨床試験が進行中です。

また、最近では、海外で、特に乳幼児を中心に、全く放射線を使わないで、脳室内へ直接メソトレキセートを注入する方法や(Rutkowski S, et al.: Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy alone. N Engl J Med. 2005 Mar 10;352: 978-86, 2005)(Chi SN, Gardner SL, Levy AS, et al: Feasibility and response to induction chemotherapy intensified with high-dose methotrexate for young children with newly diagnosed high-risk disseminated medulloblastoma. J Clin Oncol 22:4881-4887, 2004)、自家末梢血幹細胞救援を併用したさらに強い大量化学療法を併用する治療法(Gajjar A , et al: Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma (St Jude Medulloblastoma-96): long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol 2006 Oct;7(10):813-20)で優れた治療成績が得られています。


[再発]

 再発部位は後頭蓋窩にもっとも多く、脳脊髄以外への転移も少なくありません。 V-Pシャントを介して全身性に転移を認めることもあります。したがって、治療後の経過観察としては、4~6ヶ月ごとにMRI検査を行い、再発の発見につとめる必要性があります。

[望まれる治療体制]

 上記のように髄芽腫は手術、放射線、化学療法を用いた集学的治療が必要とされます。また、病理診断も難しく、内分泌の後遺障害が残ることもあり、長期間にわたる経過観察も必要となります。したがって、脳外科医、放射線医、小児科医、病理医、小児内分泌医が存在していることが最低限必要であり、かつそれぞれが高度のレベルを有していることが求められます。また、最近では、高リスク群に対して化学療法を限界まで強化するというのが世界的傾向であり、白血病の移植治療などで、十分な大量化学療法の経験をつんだ小児血液腫瘍内科医がいない施設では、満足な治療選択を行うことができません。眼科や耳鼻科、歯科の診察が必要となることもあります。しかも、各科の医師が存在するだけでは不十分であり、各科が真に連携していることが求められます。それ以外にも、長期間の入院が必要となることから、院内学級の存在、親が長期間宿泊できる施設、ボランティアスタッフなどによる援助、心理的支援など、求められる条件は限りがありません。
また、上記のように海外ではさらなる治療成績の改善、QOLの向上を目指して数々の臨床試験が行われており、日本でも、きちんとした体制のもとで臨床試験が行われることが求められています。


<PNET>

 小脳と大脳を分けている膜を小脳テントと呼び、PNET(原始神経外胚葉腫瘍)はテントより上の部分に発生することが多く、このようなものはテント上PNETと呼ばれ、松果体や大脳などに発生することが多いと言われています。。一方、髄芽腫はテント下に位置する小脳に発生します。
 PNETと小脳に発生する髄芽腫は、病理学的には極めて類似しており、一時は発生部位が異るだけで同一の腫瘍と考えられたこともありますが、異常を起している遺伝子が異り、またPNETは髄芽腫より予後が悪いなどの相違点も明らかとなり、現在では異る腫瘍と考えられています。

しかし、治療法などには髄芽腫とは大きな相違がありません。